去る6月4日、東京プリンスホテルにおいて第7回ライフサイエンス・サミットが開催された。本会は政官学産が参集した最高位の議論の場である。
挨拶
主催者「ライフサイエンス推進議員連盟」を代表して会長代理、谷垣禎一議員から、臨床試験システムの構築と、イノベーション・新産業創出の担い手たるベンチャーの育成をテーマとして率直な議論を期待する旨の挨拶があった。
細田博之議員から以下の基調報告があった。わが国のライフサイエンス研究は基礎分野では世界のトップクラス(第4位)であるの対し、臨床分野では大きく遅れをとっている(第14位)。新医薬品分野では輸入超過である。2006年12月には、治験を含む臨床研究の活性化、新医薬品承認審査の迅速化と質の向上、ならびにベンチャー育成・税制・規則制度に関して政策が決定された。臨床・治験に関する国家予算は米国NIHの15%に過ぎないのも現実である。国民が被験者として参画するインセンティブも希薄である。
第1部 「我が国の臨床研究システムの改革パネルディスカッション」
議長:(独)科学技術振興機構研究開発センター主席フェロー 井村 裕夫
・我が国の2005年度の新薬上市数は13に過ぎず、審査月数は24ヵ月と世界1長い。現場の実施・支援人材・研究の不足、ネットワーク・制度・審査機構の不備などである。統合的迅速臨床研究ICR (Integrative Celerity Research)を提唱する。
厚生労働省事務次官 辻 哲夫
・わが国の医師は国内に広く薄く分布していて医療に忙殺されている。中核病院・拠点医療機関を整備し、当省予算を拡充する必要がある。
文部科学省文部科学審議官 林 幸秀
・この10年間、臨床に関する一流国際誌基礎論文数は鈍化、頭打ちである。基礎研究成果を臨床に応用するトランスレーショナル・リサーチ(TR)を推進する。
総合科学技術会議議員 本庶 佑(ほんじょ たすく)
・臨床研究体制を担う人材育成が急務である。厚労省と文科省の協調策が必要である。
国立がんセンター中央病因臨床検査部長 藤原 康弘
・医師主導の臨床試験費用の公的制度でのカバーを望む。病院には臨床実務者がいない。外国の被験者で得た情報の恩恵を一方的に自国民が浴することも問題である。
日本製薬工業協会会長 青木 初夫
・臨床試験情報から新バイオマーカーを見出して次の創薬に活かす循環ができていない。
医師主導の臨床試験なくしてベンチャーの創意・新技術と連携した創薬は実現できない。
参議院議員 藤井 基之
・臨床試験で安全性を担保する価値を反映させてはどうか。
第2部 「魅力あるライフ産業のイノベーションの実現」
~バイオベンチャーの役割と社会的活用について~
議長:日系BP社バイオセンター長 宮田 満
・現在、ベンチャーは窮地に立っている。製品化のための資金が絶対的に不足している。
経済産業省製造産業局長 細野 哲弘
・バイオベンチャー育成に向けた臨床研究・治験環境の整備、承認審査の迅速化・質的向上など一連を関係省庁が連携し、世界に通用する日本発ベンチャーの育成を図っている。
大学発バイオベンチャー協会会長 水島 裕
・資金を有望者へ集中し、特徴ある分野に特化すべきである。大手製薬メーカーにベンチャーを活用してもらいたい。
アンジェスMG(株)取締役 森下 竜一
創薬バイオベンチャーは先行投資が続き資金調達に苦しんでいる。Phase-Ⅱ以降と収穫時期が近い。産産連携による大手とのアライアンスを望んでいるがハードルが高い。
武田薬品工業(株)社長 長谷川閑史(はせがわ やすちか)
・当社は重点疾患領域製品戦略に基づいて世界規模で共同、導入を行っている。相乗効果の文化を持つ会社を買収している。
株式会社ファーマフーズ社長 金 武祚(キム ムジョウ)
・マスコミ報道をはじめとして、オベンチャーを育成する社会風潮を望む。
サントリー(株)技監 田中 隆治
・わが国では食の抗酸化機能、醗酵食品の腸を通じた免疫作用など進んだ研究があるにもかかわらず、特保の範疇でも機能を表示できない。新試験で得られたエビデンスを活用してメーカーがベンチャーを活用する仕組みが必要である。
株式会社バイオフロンティアパートナーズ社長 大滝 義博
・国は10年間国税を投入してこの芽を育てるくらいの覚悟が要る。
これらの議論を経て以下の「ライフサイエンス・サミット大会宣言」が採択された。
国全体として、主体的・戦略的な臨床研究の推進、公的支援や中核拠点の整備、臨床研究人材の育成に向けた教育及び評価システムを改革する。バイオベンチャーの育成と社会的活用するためにサポート体制を構築し、円滑な資金確保と社会的活用を加速する。本会議から継続的な政策提言を行う。